HELEN OF TROY/アメリカ
監督:ジョン・ケント・ハリソン
<主なキャスト>
ヘレン:シエンナ・ギロリー
パリス:マシュー・マースデン
アガメムノン:ルーファス・シーウェル
プリアモス:ジョン・リス=デイヴィス
カサンドラ:エミリア・フォックス
メネラオス:ジェームズ・キャリス
ヘクトル:ダニエル・ラパイン
テセウス:ステラン・スカルスガルド
ヘカベ:マリアム・ダボ
アキレス:ジョー・モンタナ
……etc
2003年に制作された、ギリシア神話のトロイア戦争をモチーフにしたアメリカのテレビ映画。パリスが羊飼いになった経緯やパリスの審判など、ギリシア神話の物語を描いており、アメリカでは学校の教材として使用されたという。日本で映画専門チャンネルで放送された時は『トロイ/愛と宿命の戦い』のタイトルが付けられた。絶世の美女へレンを中心にしたトロイの王子パリスの愛の物語が物語の主軸となっている。
トロイア戦争はギリシア神話の伝承の一つ。古代ギリシア連合軍と城塞都市イリオス(トロイア)と間で交わされた、神々と数々の英雄が入り混じり戦った10年に及ぶ大戦争である。イリオスは現在のトルコ北西部に存在したといわれる都市。古代ギリシアの時代に、トロイア戦争に関する一大叙事詩環が作られた。ホメロスの「イーリアス」「オデュッセイア」がとりわけ有名。それ以外の叙事詩は断片しか残されていないが梗概は現代にも伝えられている。ギリシア叙事詩の最高傑作とも言われるホメロスの「イーリアス」は紀元前8世紀半ば頃に作られ口述によって伝承されてきた。紀元前6世紀後半のアテナイで文字化されたとされる。今日の形で完成したのは紀元前2世紀のアレクサンドリアでだとされる。
「イーリアス」はトロイア戦争勃発から十年が経過したある日から始まり、イリオスの英雄ヘクトールの葬儀で終わっており、戦争のきっかけとなったパリスの審判や、イリアス陥落のきかっけとなったトロイの木馬は別の叙事詩によって描かれた物語である。トロイア戦争をめぐる叙事詩は、架空の戦争が題材になっているものだと長年考えられてきたが、19世紀末にハインリヒ・シュリーマンの発掘によって古代の戦争の跡が残る遺跡が発掘され、イリオスではないかとも言われている。トロイア戦争は、紀元前13世紀ごろに実際に起きたものだという説や、周辺地域で繰り返し起こった小規模な侵略が題材となっているという説などがある。もちろん、トロイア戦争はそもそも存在しなかったという説も根強い。
戦争のきっかけは、ギリシア神話の最高神ゼウスが、「地上の人間が増えすぎたので戦争を起こして少し減らそう」と考えたことだった。そこでゼウスの正妻の権力の女神ヘラ、戦と知恵の女神アテナ、美の女神アフロディーテの三者が、美を競って争うように仕向けた。三女神はイリオスの王子パリスに「誰が最も美しいか」の審判役を担わせる(パリスの審判)。ヘラは「世界を支配する力」を、アテナは「あらゆる戦いに勝利する力」を、アフロディーテは「最も美しい女」を、それぞれ与えると約束した。パリスが選んだのはアフロディーテだった。
パリスはスパルタの国にイリオスからの友好使節の一員として訪れた。そこでギリシア一の美女と謳われたヘレンと出会い、ヘレンはアフロディーテの力によってパリスを愛するようになった。パリスとヘレンはイリオスに向かう。しかし、そのヘレンはスパルタ王メネラオスの妃であった。ヘレンはその美しさから求婚者が後を絶たなかったことから、メネラオスと結婚する際、「もしもこの結婚を脅かすものがいたら、すべての求婚者が一丸となってこの敵を排除する」という約定を結んでいた。さらに、イリオスに領土的な野心を抱くメネラオスの兄でミュケナイ王アガメムノンの思惑も加わり、ヘレンを奪還すべくギリシアの総力を挙げて千艘を超える軍船によるイリオスへの大遠征軍が結成された。これを、イリオスはパリスの兄で英雄ヘクトールを事実上の総大将に迎え撃つ。さらに、ギリシア神話の神々も、いずれかの陣営に与して、戦いは壮絶なものとなった。
戦争は10年にもわたり続いた。ギリシア連合軍は幾度となく総攻撃をかけるもイリオスの城砦に阻まれ、たくさんの血が流れ、命を落とした。その中にはギリシア最大の英雄アキレウスの名も、イリオスの英雄ヘクトールの名も、戦争のきっかけを作ったパリスの名もあった。ギリシア一の知恵者であるイタケ王オデュッセウスの発案でたくさんの兵士が入ることができる巨大な木馬が建造された。ギリシアの軍勢がいなくなった海岸線に木馬が置き捨てられているのを見つけたイリオスの将兵は、これを神への供物だと考え、わざわざ自分たちの手で城壁を破壊してイリオスに運び込んだ。その夜、木馬から兵士たちがイリオスの城内に侵入し、撤退したように見せかけていたギリシア連合軍も総攻撃を開始。イリオスはわずか一夜にして陥落した。
華名
メネラオスは自分を裏切り戦争の原因となったヘレンを殺そうとするが、ヘレンが10年前と違わぬ美しさを保っていたことや、スパルタを去ったのはアフロディーテに惑わされてやったことだと命乞いしたことから殺すことができず、ともに国に帰ることにしたという。勝利したギリシア連合軍の将兵にも、イリオスに与した神々による報復にって悲惨な災厄が降りかかった。ギリシアの船団は帰国の最中、暴風雨に巻き込まれ生き残った英雄たちにも命を落としたものがいた。同じく暴風雨に巻き込まれたメネラオスはエジプトに漂着して帰国に八年の歳月がかかり、オデュッセウスも難破して祖国にたどり着くまで十年近く放浪生活を余儀なくされた。最高指揮官であったアガメムノンは国を開けている間に妃が愛人を作っており入浴中に謀殺された。
紀元前12世紀。トロイの王子として生まれたパリスは「国を亡ぼす」と予言され、捨てられてしまう。羊飼いに拾われ、強く逞しく成長したパリスは、山中の洞窟で三人の女神の美貌を巡る諍いの裁定をすることになってしまう。パリスは世界で最も美しい女を与えると約束したアフロディテを選ぶ。その後パリスは、競技会に参加して勝ち上がる。王と王妃に謁見したパリスは、かつて捨てられた王子と認められ、王家に迎え入れられることになった。
トロイの王子に戻ったパリスは、スパルタに使節として訪れ、絶世の美女へレンに恋をしてしまう。しかしヘレンはスパルタ王メネラオスの妻で、メネラオスがパリスを殺そうと画策したため、パリスはヘレンを連れてトロイに逃げ帰る。ギリシア中の王や英雄から求婚されていたヘレンをメネラオスが妻にするにあたって、求婚者たちの間である約定がかわされていた。その中にはメネラオスの兄でミュケナイ王のアガメムノンや勇猛な戦士アキレス、聡明なイタケの王オデュッセウスらの名前もあった。約定の内容は、「美しいヘレンを妻にする者は公平にくじによって決める。そして、その結果に誰も反対してはいけない。そして、誰か今後それを乱すものは参加した全員で力をあわせてこれに当たる」というものだった。
かくして、トロイにヘレン奪還のためのギリシアの連合軍が押し寄せる。特にアガメムノンは権力主義者で、この機に乗じてトロイを支配しようと考えていた。かくしてトロイア戦争が始まる。戦争は予想に反して、長期化の様相を示し始める。こう着状態が続き、気が付くと、十年が過ぎようとしていた。多くの血が流された。この戦争を引き起こしてしまったことによる自責の念にさいなまれるヘレン。そんな時、ギリシア連合軍側から一つの提案がされる。それは、メネラオスとパリスとの一対一の決闘だった。そして、停滞していた物語は、岩が坂を転がり落ちるように、破滅へと向かって動き始める。
トロイア戦争のクライマックスであるトロイの木馬の話は子供の頃から好きな話だった。2004年に公開されたブラッド・ピット主演の「トロイ」が神話を排除した作品だったこともあり、ギリシア神話のトロイア戦争を扱った映画はないかと探してみた作品だった。3時間弱の時間は通しで見るには長いが、長大なトロイア戦争の物語を描くには決して十分とは言えない時間と感じる。その時間の中で、ギリシア神話の物語に、ヘレンとパリスの恋愛模様にメネラオスを含めた三角関係の要素を取り入れながら描かれた作品になっている。悲劇の運命や男たちの欲望に翻弄されるヘレンと、運命に導かれて出会ってしまったパリス。始まりのやり取りが上手く描かれていて、ヘレンは悪女的な妖婦ではなく、パリスも一時の欲情で他国の王妃を強奪するような考えなしには描かれていない。ヘレンとパリスの出生と運命をちゃんと描いたことで、しっかりと一本筋の通ったドラマになっていると感じる。最後の戦いで、彼らの運命はどう変わるのか。トロイア戦争が終わった後のことも軽く触れられている。
ギリシア神話のトロイア戦争は、古代ギリシア連合軍と都市国家トロイとの戦いを描いた作品で、オリンポスの神々も双方の陣営に分かれて戦った。だが、ドラマの中ではさすがに描き切れず、戦争が始まると神々の介入は描かれない。ヘレンとパリスの愛の物語をの中で、割を食ってしまったのがトロイア戦争最大の英雄であるアキレスとトロイの王女カサンドラだろうか。ホメロスの叙事詩の主役であるアキレスは今作では脇役にすぎず――「トロイ」の後に見たからなおさら思ったのかもしれないが――ただ暴れることだけが目的の、力自慢の単細胞に描かれ、役者さんもブラッド・ピットと比べたら気の毒だ。そして、未来を見通す予言の力を持つカサンドラ。生まれたばかりのパリスの存在がトロイの破滅に繋がると気付きパリスを排除しようとするなど、トロイの滅亡を食い止めようと尽力するものの、結果的に予言の成就に繋がっていく気の毒な役どころ。ギリシア神話でのカサンドラは、太陽神アポロンによって予言の力を与えられ、さらにその予言を誰も信じない呪いをかけられる悲劇の王女である。ギリシア神話のトロイア戦争への興味を抱かせてくれる作品だったと思う。
トロイア戦争をトロイの王子パリスと絶世の美女ヘレンとの愛を軸にトロイの側から描いた歴史スペクタクル映画。
壮大なトロイア戦争を神話としてではなく架空の人間ドラマとして、古代ギリシャの英雄アキレスの視点で描いた歴史大作。