パイレーツ・オブ・バルト(2006年)

DATE
A PIRATE'S HEART/スペイン、ドイツ
監督 : ミゲル・アレクサンドル
<主なキャスト>
ケン・デュケン
クレール・ケーム
シュテファン・ホルナク
クドルン・ランドグレーベ
ヨヘン・ニッケル
……etc
【作品解説】
2006年に制作されたテレビのミニシリーズ。14世紀にバルト海を荒らしまわった実在の海賊、クラウス・シュテルテベイカーの戦いの物語。
【クラウス・シュテルテベイカー(1360年?〜1401年?)】
14世紀、北海やバルト海を荒らしまわったフィタリエンブリューダーという海賊たちの集団があった。ドイツ語ではヴィターリエンブリューダー――食糧兄弟団という意味になるらしい。デンマークを支配していたマルグレーテ1世とスウェーデン王にしてメクレンブルク=シュヴェリーン公アルブレクトの争いの中から生まれた集団である。1389年にマルグレーテ1世に敗れて息子とともに捕らえられたアルブレクトはスウェーデン王の地位を失った。しかし、アルブレクトは巻き返しを図り、1392年にフィタリエンブリューダーの前身となる者たちを雇い入れた。彼らは、ストックホルムを封鎖したマルグレーテ1世の軍を海戦で破り、ストックホルムに食糧を搬入することに成功した。この作戦の成功がフィタリエンブリューダーの名前の語源となっている。
この頃、ヨーロッパ北部の経済を支配していたハンザ同盟都市の中には、海上交通の要衝を支配するデンマークが勝利して力を増すことを嫌い、フィタリエンブリューダーを支援し、避難港を提供する都市もあった。数年でバルト海における一大勢力となったフィタリエンブリューダーだったが、やがて公然と海賊行為を働くようになり、沿岸の諸都市を攻撃し掠奪した。フィタリエンブリューダーの略奪行為により、バルト海交易やニシン漁産業は崩壊したという。しかし、マルグレーテ1世はデンマーク、スウェーデン、ノルウェーの連合であるカルマル同盟(1397年)を結成する。この巨大勢力の出現によりハンザ同盟もマルグレーテ1世との協調路線を取らざるを得なくなった。1394年にスウェーデン領ゴットランド島を征服しヴィスビューを本拠地としたフィタリエンブリューダーだったが、1398年にドイツ騎士団によってゴットランドは征服され、ヴィスビューは壊滅し、フィタリエンブリューダーは島を追い出された。しかし、フィタリエンブリューダーの残党たちは各海域に残り海賊行為を続けた。彼らはリケデーラー(平等な分配者)を名乗った。
フィタリエンブリューダーの中で名高いのがクラウス・シュテルテベーカーである。北ドイツの伝説的な人物で、ドイツの民間伝承では富める者から奪い貧しき者に与える伝説的な義賊だという。しかし、その史料は少なく、存在そのものを疑問視する説を唱える歴史家もいるという。シュテルテベーカーは低地ドイツ語で「ビーカー一杯を飲み干す者」という意味だという。壺いっぱいの4リットルのビールを一息に飲み干したという逸話に由来しているという。この頃の海賊は、たびたび大仰な偽名を用いていたという。ただし、この姓はただ生まれ持ったものであるという説もある。
シュテルテベーカーはフィタリエンブリューダーが本拠のゴットランド島を追放された後、本格的に頭角をあらわした。シュテルテベーカーは複数の船長とともにハンザ同盟の商船を船籍を問わずに拿捕した。1401年4月、シモン・フォン・ユトレヒトの率いるハンザ自由都市ハンブルグの艦隊が北海に浮かぶヘルゴラント島付近でシュテルテベーカーが率いる海賊船団を補足した。戦いの末、シュテルテベーカーと仲間たちは拿捕されハンブルグに移送された。伝説によればシュテルテベーカーはハンブルグを一周するほどの金の鎖を差し出し自身の命と自由の担保にしようとしたが赦されず、72人の仲間とともに処刑された。別の伝説では、ハンブルグの市長はシュテルテベーカーに斬首された後、通り過ぎた仲間の数だけ助けると約束した。首を落とされたシュテルテベーカーは立ち上がり、11人通り過ぎたところで処刑人が台座を投げつけた。しかし、市長は約束を破って全員を死刑にした、という。処刑は1401年10月21日だったとされる。
1878年、倉庫の建設現場で頭頂部に釘の刺さった頭蓋骨が見つかった。発見されたのは、昔、海賊の首を見せしめに晒していた場所であったことからシュテルテベーカーのものではないかと言われ、ドイツのハンブルグ歴史博物館に展示されていた。法医学的見地から1400年前後の時代の男性の頭蓋骨と判明したが、シュテルテベーカーのものであるという確たる証拠は得られなかった。2010年1月。その頭蓋骨が何者かに盗まれたことが判明しニュースになった。
【ストーリー】
14世紀――。北ドイツの諸都市を中心にしたハンザ同盟と呼ばれる都市同盟がバルト海貿易を独占していた時代。クラウスは、目の前で何者かに家族を理不尽に奪われ、修道院へ入ることになった。修道院を出たクラウスは幼馴染の女性・エリザベトと再会する。クラウスとエリザベトは互いに好意を抱いていたが、エリザベトはジーモンという男と婚約していた。都市貴族の有力者のジーモンと縁を持ちたいエリザベトの養父の命令による政略結婚であった。ジーモンはクラウスの両親の仇でもあった。街を離れることにしたクラウスは、エリザベトの養父に奉公していた兄に頼んでジーモンの不正の証拠を突き止めてもらおうとする。
デンマークへ向かう船に船員として乗り込んだクラウスだったが、その船はエリザベトの養父がデンマークとの交渉に向かう船で、エリザベトも乗り込んでいた。デンマークはハンザ同盟の商船を襲う海賊を保護していて、それをやめさせるためのものだった。デンマークへ到着したエリザベトの養父は、女王から法外な要求を突きつけられエリザベトを人質に取られて追い返されてしまう。しかも、国に戻ると、クラウスの兄から、ジーモンの父親の不正を突きつけられる。
不正を明らかにしようとしたエリザベトの養父だったが、ジーモンに殺されてしまう。書類を偽造して、エリザベトの養父の財産を手に入れたジーモンは、ハンザの最高権力者として、自らデンマークとの交渉に乗り出す。その頃クラウスは、船長となったジーモンの部下の横暴に怒り、ついに船員たちを扇動して船を乗っ取り、海賊として生きることを決心する。
【感想】
日本では、Episode1海賊王への道、Episode2運命の海と2枚に分けて発売された。正直、当時大ヒットした某人気映画にあやかろうとしているのが見え見えの邦題にあまり期待せずに観たのだが、なかなか良かった。傑出した点は正直ないと思うし、低予算だなと思えるセット臭さは目立つものの、バルト海を巡る複雑な力関係と、ヒロインとの恋愛話を軸にした、良作になっていると感じる。
Episode1でクラウスが海賊となるまでを描き、Episode2では海賊としてハンザを襲い、デンマークの狡猾な女王とも渡り合う。そしてジーモンとの直接対決も控えているわけだが、流れもよく飽きさせずに見せてくれる。荒くれ者ぞろいのはずの海賊たちの線の細さがちょっと気になったが、それはご愛嬌。ライバルのジーモンとの直接対決の場面は一番の見せ場。途中ジーモンの小物ぶりが目立ってしまっただけに、できればただの野心家ではなく、クラウスの正義に対抗できる、都市貴族の正義を代弁できる人物にしてほしかったなと思う。