日本
監督:山崎貴
原作:三田紀房「アルキメデスの大戦 」(ヤングマガジンコミックス)
<主なキャスト>
櫂直:菅田将暉
山本五十六:舘ひろし
田中正二郎:柄本佑
尾崎鏡子:浜辺美波
大里清:笑福亭鶴瓶
大角岑生:小林克也
宇野積蔵:小日向文世
永野修身:國村隼
嶋田繁太郎:橋爪功
平山忠道:田中泯
……etc
2019年7月に劇場公開された、三田紀房の人気コミックスの実写映画化作品。1933年(昭和8年)、日本が欧米との対立を深める中、巨大戦艦「大和」建造計画を巡る海軍内の陰謀を、数学によって明らかにし、ひいてはアメリカとの無謀な戦争を阻止しようと奔走する若き天才数学者の物語。
「戦艦大和」は大日本帝国海軍が保有した建造した世界最大の戦艦。1937年(昭和12年)、海軍の軍艦や空母の保有に制限を規定したワシントン海軍軍縮条約・ロンドン軍縮条約が失効したことでアメリカやイギリスが新型戦艦を建造するであろうと考えた軍令部は、それを凌駕する戦艦を保有することが必要と考え、超大型戦艦の建造を海軍艦政本部に要請した。この頃はまだ、洋上の戦いにおける主力艦は戦艦であり、巡洋艦や駆逐艦は補助艦、航空機は補助戦力とみなされていた。海軍内では戦艦を主力とした艦隊同士の洋上決戦が海戦の、ひいては戦争の帰趨を決めるという大艦巨砲主義の考えが優勢であり、他国より巨大な戦艦を保有することは国威を示すものでもあった。ただ、この当時、すでに今後の海戦の行方は航空機によって決するという航空主兵論が唱えられており、山本五十六などの航空主兵論者は巨大戦艦建造に反対していた。
戦艦「大和」――法律上の正式名称は軍艦「大和」であったという――は、1941年(昭和16)12月8日に真珠湾攻撃によって日米が開戦した直後の12月16日に就役した。就役直前の12月8日の真珠湾攻撃と12月10日のマレー沖海戦で、主戦力が航空戦力に移り変わろうとしていることが日本海軍の手で立証されることになった。大和型戦艦の一号艦となった「戦艦大和」は1942年(昭和17年)8月の「戦艦武蔵」の就役まで、大日本帝国海軍連合艦隊旗艦を務めた。大和型戦艦は4隻の建造が予定されていたが、2番艦「武蔵」が竣工しただけで、3番艦の「信濃」は空母に変更され、4番艦は建造が見送られた。「大和」は全長263メートル、公試排水量6万1900トンという史上最大の戦艦であった。さらに史上最大の46cm主砲3基9門などを備えていた。当時の日本の技術を駆使して建造された戦艦であり、その規模や能力は秘密にされていた。就役後、主要な海戦に参加するが、海戦の様相が変わる中、十分な活躍の場面を得られなかった。
大日本帝国の戦況は悪化の一途を辿り、日本海軍の艦船は次々と失われ、残った艦船も燃料不足で動かすことも難しい状況になっていた。1945年(昭和20年)に入ると日本海軍は第二艦隊の再編を行った。軍令部は燃料の無くなった軍艦を軍港に繋ぎ浮砲台とする予定としていたが、連合艦隊は第二艦隊を水上特攻に投入したい意向を持っていた。2月半ばに、第二艦隊は水上特攻のために温存されることになった。マリアナとフィリピンを制し、硫黄島を陥落させたアメリカ軍は沖縄へと迫っていた。4月1日から沖縄本土へのアメリカ軍の攻撃が始まった。沖縄の救援のために4月6日、戦艦「大和」や軽巡洋艦「矢矧」、「雪風」など駆逐艦8隻の計10隻が沖縄に向けて出撃した。沖縄に突入し、艦を海岸に擱座させて砲台とするというs無謀な作戦であり、連合艦隊内でも反対の声が上がったが、最終的には承認された。第二艦隊を指揮する伊藤整一中将をはじめ、多くの艦長もこの作戦に反対した。しかし、連合艦隊参謀長の草鹿龍之介中将から告げられた「一億総特攻の先駆けになってほしい」という言葉に出撃を承諾したと伝えられる。
徳山沖を発った第二艦隊は、豊後水道を出ないうちにアメリカ軍の潜水艦に発見された。これを受けてアメリカ軍の空母部隊から数百機の艦載機が飛び立った。4月7日正午過ぎ、鹿児島県・坊ノ岬沖200㎞の海上でアメリカ軍の航空部隊による第一次攻撃が開始された。攻撃は三次に渡り、航空部隊による波状攻撃が繰り広げられた。航空支援もなく多勢に無勢の中、第二艦隊は懸命に戦った。しかし、駆逐艦「朝霜」、駆逐艦「霞」、駆逐艦「浜風」、駆逐艦「磯風」、軽巡洋艦「矢矧」と次々と沈没していく。そして、左舷に魚雷が集中命中した「大和」も大きく傾斜していく。注排水システムを稼働し、右舷に注水することで何とかバランスを保とうと試みるが、14時20分頃、限界に達した。14時23分頃、完全に転覆し、大爆発を起こした「大和」は真っ二つになり沈んでいった。沈没の直前、伊藤中将は作戦の中止を命じ、自身は「大和」と運命を共にした。有賀艦長も退艦を拒否して沈みゆく「大和」に残った。アメリカ軍の艦載機が去ると、激戦の中かろうじて生き残った駆逐艦「雪風」「冬月」「初霜」の3隻が中心となり、救助活動が行われた。これによって戦艦「大和」の乗員269名(諸説あり)をはじめ、沈没した艦船から1700名以上が救助された。しかし、第二艦隊は、戦艦「大和」以下6隻の軍艦を失い、3700人以上の戦死者という大損失を被った。これによって連合艦隊は大型水上艦艇による組織的な攻撃能力を事実上失うことになった。
昭和20年(1945年)4月7日。アメリカ軍の無数にも思える艦載機の集中攻撃を受けて、大日本帝国海軍が誇る史上最大の戦艦「大和」は沈んでいった。遡ること12年前の昭和8年(1933年)。日本は前年に満州国建国を宣言し、さらに国際連盟脱退に至り、欧米列強との対立を深めていた。海軍では、老朽した軍艦に代わる新たな軍艦の建造の会議が行われていた。永野修身中将と山本五十六少将は、これからの海戦の鍵を握るのは航空機であると考え、造船士官の藤岡少将が用意した新型空母の建造案を用意していた。しかし、海戦の雌雄を決するのは艦隊同士の砲撃戦であると主張する嶋田繁太郎少将は「航空機で上空から攻撃するなど卑怯者のすることだ」と激昂する。戦艦の設計を担当した平山忠道中将が出してきた巨大戦艦の模型を前に、「帝国海軍連合艦隊の旗艦に相応しいのは、やはり巨大戦艦だ」と嶋田はもとより大角岑生海軍大臣も魅了される。新たに建造する軍艦は新型空母か巨大戦艦か、その決定は半月後の会議に持ち越されることになった。
料亭で今後の方針を話し合う永野中将と山本少将、新型空母の設計者である技術仕官の藤岡少将。平山中将が持ち出した巨大戦艦の建造予算の見積もりはあまりに安すぎた。それを証明し、糾弾することが出来れば会議の行方も変わるだろう。しかし、時間は2週間しかない。そんな時間で見積もりを精査するなど、日本中探しても誰にも出来ないと藤岡少将は言う。話し合いは切り上げて芸者を交えて酒を呑もうと永野中将が言うが、芸者は豪遊する若者が座敷に呼んでいるのだという。芸者を融通してもらおうと山本少将が座敷に行くと、櫂直という若者いた。しばらく前まで尾崎造船で書生をしながら帝大数学科にいたという櫂の数学能力の高さを知った山本少将は、平山案の見積もりの精査を彼に行わせようとする。しかし、海軍と尾崎造船の双方に因縁を持つ櫂は、帝国海軍に幻滅し、日本を離れてアメリカの大学に留学する直前であった。巨大戦艦が建造されたら国民の戦意高揚に利用され、アメリカとの戦争になるかもしれない。そう説得する山本少将に、櫂は日本とアメリカの国力の差を挙げて、アメリカと戦うことがいかに無謀かを力説する。アメリカに向かおうとした櫂は、このままでは焦土と化すであろう日本の未来を思い、アメリカ行きを諦め山本少将の元に向かう。
山本少将の計らいで、海軍少佐の地位を与えられ、田中少尉という部下と部屋を与えられ、そこで見積もりの精査を始めた櫂。しかし、すぐに情報の少なさに閉口することになる。平山中将の巨大戦艦の見積もりは軍機扱いで閲覧できないのだ。そこで、まず本物の戦艦を見ようと、停泊中の戦艦「長門」に乗り込む。本来秘密の「長門」の概略図の閲覧に成功した櫂は、さらに長門のサイズを巻き尺で測って回る。さらにたった一晩で戦艦の設計の基礎を覚え、戦艦の製図を描き上げた櫂の姿に、いきなり素人の少佐の部下に付けられ不満に感じていた田中少尉にも櫂への敬意が生まれる。しかし、そんな櫂の動きを察知した島田少将らの妨害が始まる。櫂への誹謗中傷のビラがまかれ、巨大戦艦の設計や建造に関する資料は海軍の中のみならず民間の造船会社にも手をまわして一切の協力ができないようにしていた。櫂はかつて、書生を務めていた尾崎造船の娘、鏡子に連絡を取る。鏡子の家庭教師でもあった櫂は、鏡子との密通を疑われて帝国大学を追い出された経緯があった。鏡子は父親である尾崎留吉の仕事について知る由もなく、留吉は家に仕事の資料を持ち帰らない、とも言う。しかし、かつて尾崎造船と軍のやり方に意を唱え、尾崎造船を去った大里という人物がいると櫂に告げる。
最後の望みを託して、今は大阪で小さな造船会社を経営しているという大里を訪ねて行く櫂。しかし、軍に逆らうことがいかに無謀か思い知った大里は、櫂への協力を拒む。今や頼れるのは大里だけ、という櫂は何とか翻意してもらおうと大里の会社に居座る。そこに鏡子が東京から駆け付け大里を説得したことで、大里も腹をくくった。大里は自分の手元の資料を櫂に見せた。時間は足りないがようやく突破口が開けた。ところが東京から電報が届く。週明けに開催されるはずだった決定会議が翌日に繰り上げられたというものだった。東京に戻る列車に乗るにはあと1時間しかない。もはや万策尽きたかに思えたが、資料を見ていた櫂はある法則性があることに気付く。
実を言うと原作漫画は未読。史上最大の巨大戦艦の建造の是非を巡り海軍内の意見が対立する中、数学こそが真実と信じる天才数学者が、建造計画を頓挫させるために奔走する物語。ネットで調べた感じでは漫画版で描かれた壮大なストーリーのごく序盤の一つのエピソードであったらしい。戦艦大和の建造費を算出するという異色の題材を――正直、荒唐無稽な内容やご都合主義な展開に感じる部分も多かったが――最後まで飽きさせずに魅せる緊迫したポリティカル・サスペンスに仕上げたのはさすがだと思う。
冒頭で大和の壮絶な沈没の場面を描いているので、「櫂がどう頑張っても最後は大和は造られるんだろうなぁ。でも物語上櫂を勝たせなければならないのだからどう決着をつけるのだろうか?」と思いながら見ていたが、最後にあんなどんでん返しが待っていようとは。艦隊同士が決戦こそが海戦の華と言ってひかない嶋田少将ら巨大戦艦建造派の発言と行動の数々は小物の悪役のそれだったが、同じ穴の狢だと思われていた平山中将は、遥か先に目を向けておりその協力を櫂に求める。天才は天才を知るというべきか、櫂という人間を一番理解していたのは鏡子でも山本少将でもなく平山中将であったという皮肉。そして、現実の歴史では戦艦「大和」が沈んでも戦争は終わることがなかったという現実に虚しくなる。