怪談(2007年)







DATE

日本

監督:中田秀夫

原作:三遊亭円朝『真景累ケ淵』(角川ソフィア文庫)

<主なキャスト>

新吉:尾上菊之助
豊志賀:黒木瞳
お久:井上真央
お累:麻生久美子
お園:木村多江
お賤:瀬戸朝香
三蔵:津川雅彦
深見新左衛門:榎木孝明
皆川宗悦:六平直政
勘蔵:光石研
講釈師:一龍斎貞水
        ……etc



目次


『怪談(2007年)』の作品解説

キーワード『真景累ケ淵』

『怪談(2007年)』のストーリー

『怪談(2007年)』の感想



【作品解説】

 2007年に劇場公開されたホラー映画。Jホラーシアター作品の第4弾に位置づけられている。明治期の落語家・初代三遊亭圓朝の創作怪談落語『真景累ケ淵』を、「豊志賀の死」の話を始めとした豊志賀と新吉の関係に焦点を絞り、因果の糸に導かれるように出会い、悲惨な運命を辿る男女の姿を描いている。





【真景累ケ淵】

 日本三大怪談の一つとして知られる「累ケ淵」の怪談。江戸時代――現在の茨城県常総市羽生町の鬼怒川沿岸の累ケ淵を舞台に、無残に殺された女の怨念と、優れた僧侶によって除霊に至る怪談話である。累ケ淵の怪談話は江戸時代を通じて脚色を加えたりしながら広く流布し、累物と呼ばれる歌舞伎作品の一群が生まれたという。

「真景累ケ淵」は、「累ヶ淵」の怪談話を下敷きにした初代三遊亭圓朝(天保10年(1839年)~明治33年(1900年))による創作落語である。近代落語の祖と言われ、敬意を込めて大圓朝など呼ばれることもある初代三遊亭圓朝は多数の新作落語(現在では大正以降の作品が新作落語と呼ばれている)を創作し、現代まで多くの落語が継承されている。真打となった圓朝のあまりの巧みさゆえに師匠の2代目三遊亭圓生からも嫉妬され、圓朝が演じる演目を先に高座にかけるような妨害行為をされたため、創作を始めたとも言われている。

「真景累ケ淵」は、初代三遊亭圓朝の最初の創作ものとも言われている。初演は安政6年。当初は「累ヶ淵後日の怪談」の演目名で、その頃は三味線など鳴り物を入れた道具噺、所作を入れた芝居噺であったという。明治期に入り、内容を大きく変更し扇一本を小道具に使う素噺とした。その時、演目名も「真景累ケ淵」と変えたという。明治になり、迷信が否定されるようになり幽霊妖怪の類が「神経のせい」と言われるようになっていた。「真景」は「神経」をもじったものと言われ、懇意にしていた漢学者の信夫恕軒が発案だという。

 物語は旗本の深見新左衛門が金貸しの鍼医、皆川宗悦を切り殺したことに端を発する。深見家への恨みを残して死んだ宗悦の怨念ゆえか、深見新左衛門の妻女、新左衛門が立て続けに命を落とす。しかし、応報の物語はここで終わらず、因縁は深見新左衛門と皆川宗悦の子孫にも引き継がれ、愛憎入り乱れた物語は次々と不幸の連鎖を生み出していく。全97章からなる長大な落語のため、発端部の「宗悦の死」やとりわけ有名な「豊志賀の死」など抜き読みの形で現在でも高座で演じられているという。また、幾度となく歌舞伎化、映画化されている。



【ストーリー】

 江戸時代――。年の瀬が迫る頃、金貸しをしている針医の皆川宗悦という男が、藩士の深見新左衛門という男を訊ねていた。3年前に貸した30両は未だ返されておらず、返済額は利子を含めて65両となっていた。無い袖は振れぬと突っぱねた深見新左衛門は、それでもしつこく返済を求める宗悦を斬り殺し、累ヶ淵に捨ててしまう。しかし、深見家には不幸が重なり、ついには新左衛門も乱心し命を落とす。

 宗悦が消息を絶ってから25年。煙草売りの新吉と、三味線の師匠の豊志賀が出会う。実は新吉は深見新左エ門の倅、豊志賀は宗悦の娘であった。因縁の出会いは、やがて互いに愛情を抱くようになる。一旦は身を引こうとした新吉だったが、ついに一線を越えてしまう。身持ちが堅いことで有名だった豊志賀は、新吉を常に傍に置き、周囲から嘲弄されるようになる。親子ほど年の離れた若く美しい新吉が、いつか自分から離れてしまうと恐れた豊志賀は、若い女の弟子に厳しく当たるようになる。豊志賀の周りから人は離れていき、新吉と縁を切るようにと忠告した妹のお園とも疎遠になってしまう。そして新吉も豊志賀の独占欲の強さに辟易するようになっていった。新吉との諍いから、左目の淵に切り傷を負った豊志賀。その傷は、醜く広がっていき、妖艶で美しかった豊志賀の顔は二目と見られない醜いものとなっていった。伏せるようになった豊志賀を新吉は懸命に世話をするが、花火の夜、豊志賀の弟子のお久と江戸を離れる決意を固める。

 そんな時、豊志賀が息を引き取る。その知らせを聞いた時、新吉は豊志賀と一緒にいて、駕籠に乗せて返そうとしたしたところだった――はずだった。しかし、駕籠の中に豊志賀はいなかった。豊志賀は「このあと女房を持てば必ずやとり殺すからそう思え」と書き残していた。新吉はお久とともに、彼女の故郷へと向かう。しかしその道中でお久が半狂乱になる。なだめようとした新吉は、お久の顔が豊志賀に変わり自身に迫ってくるのに恐怖し、鎌でお久を刺し殺してしまう。その後、行き倒れた新吉はお塁という娘に助けられ、下総屋にかつぎ込まれる。お累はお久の従姉妹だった。回復した新吉は、すぐに下総屋を離れ、この地を離れようとした。そこでお園と再会する。お累は新吉に好意を持ち、主人の三蔵から娘婿にと乞われる。新吉は縁談を断るが、事故か否か、囲炉裏でお累が火傷を負い、断れなくなってしまい祝言を上げた。しかし、新吉とお累の下に生まれた子供の異質さに、新吉は恐れ下総屋に寄り付かなくなる。ここでも悲劇に向けて突き進んでいく新吉。それは果たして豊志賀の呪いなのか。



【感想】

 有名な怪談噺の映画化作品。長大な「真景累ヶ淵」のうち、「豊志賀の死」を中心に3分の1程度を映像化している。発端となったのは皆川宗悦が深見新左衛門に殺害され、恨みとともに累ヶ淵に捨てられた出来事……とされているが、豊志賀と新吉を巡る因縁に直接関わってこないから元凶という感じがない。正直、最初の5分間は要るのかな? と思わないでもなかったが、「真景累ヶ淵」の映画化である以上、入れなければいけなかったのかもしれない。ただ本編の豊志賀と新吉に関しては、呪いでなければ、何となく自業自得な感じがする。若いころに父親を失って男遊びをすることもなく中年期を迎えてしまった独り者の女の性なのか若い色男に入れあげて自制を失ってしまった豊志賀と、豊志賀を支えると口では言いつつも色々言い訳しながら途中から「めんどくせぇ女に引っかかった」という不実な態度を隠せなくなっていく若いイケメンの新吉。老いと若さが絡み合う悲劇という感じがしないでもない。

 豊志賀の嫉妬に巻き込まれて命を落とすことになるお久やお累にすればもらい事故な感じもあるが、ホラーや怪談にはそういう理不尽さが必要なのかもしれない。随所に入る恐怖演出も、そんなに無茶苦茶なものではなく、時代劇としても雰囲気を壊すものでもない。個人的には特に手の演出が怖く感じた。全体的な雰囲気――特に豊志賀を演じた黒木瞳、新吉を演じた尾上菊之助の両人が醸し出す雰囲気がとても良く、良質のホラー映画になっていると感じた。それだけにエンディングに流れる――曲の良し悪しではなく――曲が作品の雰囲気に合ってないのは気になった。

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