BEN-HUR/アメリカ
監督:ウィリアム・ワイラー
原作:ルー・ウォレス『ベン・ハー:キリストの物語』(辻本庸子,武田 貴子(訳)/松柏社)
<主なキャスト>
ジュダ=ベン・ハー:チャールトン・ヘストン
クインタス・アリウス:ジャック・ホーキンス
族長イルデリム:ヒュー・グリフィス
メッサラ:スティーヴン・ボイド
エスター:ハイヤ・ハラリート
ミリアム:マーサ・スコット
ティルザ:キャシー・オドネル
サイモニデス:サム・ジャッフェ
バルサザー:フィンレイ・カリー
ポンシャス・パイラト:フランク・スリング
ドルーサス:テレンス・ロングドン
セクスタス:アンドレ・モレル
フレビア:マリナ・ベルティ
……etc
キーワード『ベン・ハー:キリスト物語(Ben-Hur;A Tale of the Christ)』
日本では1960年4月に劇場公開されたアメリカ映画。原作はルー・ウォーレスが1880年に発表した小説。原作は幾度となく映像化されてきたアメリカ文学史に残る名作である。その中でも、ウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演で1959年に映画化された今作は最も有名な映画である。製作に6年半、総製作費54億という、当時のハリウッドの超大作歴史劇の一本。公開されるや大ヒットとなり、この映画一本で倒産寸前だったMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー・スタジオ)を立て直したという。第32回アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞をはじめ11部門で受賞した。現在でもアカデミー賞史上最多受賞作品の一つである。
「ベン・ハー:キリスト物語(Ben-Hur;A Tale of the Christ)」はアメリカの作家ルー・ウォーレスが1880年(1827年~1905年)に刊行した長編小説。主人公ジュダ・ベン・ハーはイエスと同じ時代を生きたユダヤ人。ユダヤ人がローマ帝国に支配されていた時代を舞台に、裕福なユダヤ人貴族ベン・ハーが辿る数奇な運命と、イエスの生涯やキリストの受難と復活などの逸話を交錯させながら描いている。ベン・ハーは架空の人物ではあるが、「キリストの物語」の副題が着けられている通り、イエスをはじめ新約聖書に登場する人物も作中に出てくる。
ルー・ウォーレスにとって2作目の小説となった本書は、発表された当初の評判は芳しいものではなかったという。しかし、じわじわと評価を上げていきベストセラーとなった本書は、1900年にアメリカで最も売れた小説となったという。1899年に舞台化され、ブロードウェーの舞台で繰り返し上映された。無声映画時代の1907年に初めての映画化がされ、その後幾度となく映像化されている。1959年の映画化では全米で大ヒットを記録し興行的な大成功を収めるばかりでなく、批評家からも大絶賛され、アカデミー賞11部門を獲得するなど高い評価をうけた。
紀元26年。ユダヤ人の住む辺境の地エルサレムはローマ帝国の支配下にあった。総督の交代が近づくエルサレムに、一人の軍人が司令官として派遣されてくる。男の名はメッサラ。14歳までこの地で暮らしていたが、今はローマで出世し、野心を胸に秘めて戻ってきたのだった。そのメッサラをかつての親友のジュダ・ベン・ハーが訪ねてくる。ベン・ハーはユダヤの裕福な貴族で人望の厚い男だった。メッサラはユダヤの統治を円滑に進めるためにベン・ハーに協力を求める。しかし同胞の苦しみを知るベン・ハーは、メッサラとの友情は守りたいと思いつつも、裏切者になるのを拒否して、ローマに強い反感を持つ強硬派の人間の名を教えなかった。その上、ローマ帝国への侮辱を口にしてしまい、両者の間には亀裂が入る。
独自の信仰を持ち、ローマ帝国からの解放を望むユダヤ人から、ローマ帝国の軍は嫌悪の視線を向けられていた。そんな折、偶然から巡回中の総督にベン・ハーの屋敷の瓦が当たってしまう。ベン・ハーは総督に危害を加えようとしたとして捕らえられ、メッサナは意趣返しとして彼を弁護することも助けることもなかった。ベン・ハーは奴隷に堕とされ、ガレー船送りにされてしまう。ガレー船では鎖に繋がれ、死ぬまで漕ぎ手として労苦に耐えなければならない。さらに一緒に捕らえられたベン・ハーの母親と妹は地下牢に幽閉されてしまう。労役に従事するために護送される途中、ベン・ハーには水も与えられず渇きに苦しみついに倒れてしまう。そこで一人の男から水を分けられる。ベン・ハーは彼を救世主イエスとはまだ知らなかったが、彼が偉大な人物であることは感じていた。
それから3年。ベン・ハーは普通の男なら1年も持たずに命を落とすガレー船の苦役を、ユダヤの神への信仰やメッサラへの復讐の念を頼りにガレー船で生き延びていた。そんなベン・ハーをローマ海軍総司令官アリウスが目をかける。実の息子を失って消沈していたアリウスは、海戦の直前にベン・ハーの足から足枷を外させた。戦いの中、ベン・ハーは敵艦の衝突を受けて沈没する船からアリウスを救出した。アリウスの乗艦する船は沈んだが戦いにはローマ海軍が勝利し、アリウスの口添えでベン・ハーはガレー船から降りることができた。アリウスの協力で戦車の御者として新たな人生を歩み始めたベン・ハー。ローマ皇帝より恩赦を受けて晴れて自由の身となり、戦車レースでも連戦連勝を重ね、ローマでも話題の人になったベン・ハーは、執政官となったアリウスの養子となった。
順風満帆な第二の人生を歩むベン・ハーだが心の中にあるのは、生死すらわからない母と妹のこと。ついに、ベン・ハーはエルサレムへと向かうことを決めた。エルサレムへの旅の途中で救世主を探す博士から偉大な人物の話を耳にする。さらに戦車レースで連戦連勝しているというメッサラの名前も。エルサレムに着いたベン・ハーは懐かしい自分の家へ向かうが荒れ果てていた。そこで旧友の姿を見つけ再会を喜び合うが母と妹の姿はなかった。今やベン・ハーは執政官アリウスの息子。メッサラに再会したベン・ハーは母と妹を解放するように命令する。ところがベン・ハーの母も妹も、らい病に侵されており隔離のために死の谷へ向かわされることになっていた。ベン・ハーには母と妹が死んだと伝えられる。メッサナへの怒りに燃えるベン・ハーは、メッサナの出場する戦車レースに参加し、メッサナへの復讐を果たすことに決める。
ローマ帝国の圧政下のエルサレムを舞台に、ユダヤ人の貴族ベン・ハーの復讐劇とイエスの生と死を絡ませて描いた、古代ローマものの中でも指折りの名作。この映画を語るのに、クライマックスの戦車レースの場面が語られることが多い。現代ならCGを駆使して再現するような場面を、当時の技術でこれほどのものをよくぞ、と思わされる。ハリウッドで超大作がガンガン制作されていた頃の映画製作の凄さを感じらさせる歴史的名場面である。
劇中でイエスの姿は後ろ姿しか出てこないが、その尊さ、偉大さを感じられる描き方になっている。テーマはベン・ハーの復讐と神の愛だろうか。帝国が領土の拡大を続ければ、文明の衝突は避けられない。その先に待っているのは支配する側される側の全く対等ではない関係である。それが被支配者であるユダヤ人のベン・ハーと支配者側に回ったメッサナの姿に集約される。メッサナに勝利し、その無残な死を目のあたりにしてもベン・ハーへのローマ帝国への憎しみ、敵愾心は消えなかった。そんな彼の復讐心は神の御子の死を目の当たりにし、「主よ、彼らを赦し給え」という言葉に前に消え去っていく。メッサナへの復讐を果たしても幸福を得られなかったベン・ハーが、恨みをなくして最後に得られた幸福こそが神の愛であり、神の奇跡なのでは、と感じる。