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オリエント急行殺人事件(2017年)





DATE

Murder on the Orient Express/アメリカ
監督 : ケネス・ブラナー
原作 : アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』(山本やよい(訳)/クリスティー文庫)

<主なキャスト>

エルキュール・ポアロ : ケネス・ブラナー
ピラール・エストラバドス : ペネロペ・クルス
ゲアハルト・ハードマン : ウィレム・デフォー
ドラゴミロフ公爵夫人 : ジュディ・デンチ
ラチェット : ジョニー・デップ
ヘクター・マックイーン : ジョシュ・ギャッド
エドワード・マスターマン : デレク・ジャコビ
ドクター・アーバスノット : レスリー・オドム・Jr
ピエール・ミシェル : マーワン・ケンザリ
ヒルデガルデ・シュミット : オリヴィア・コールマン
エレナ・アンドレニ伯爵夫人 : ルーシー・ボーイントン
マルケス : マヌエル・ガルシア=ルルフォ
ルドルフ・アンドレニ伯爵 : セルゲイ・ポルーニン
ブーク : トム・ベイトマン
ハバード夫人 : ミシェル・ファイファー
メアリ・デブナム : デイジー・リドリー
                  ……etc

目次
『オリエント急行殺人事件(2017年)』の作品解説
キーワード『オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)』
『オリエント急行殺人事件(2017年)』のストーリー
『オリエント急行殺人事件(2017年)』の感想


【作品解説】

 日本では2017年12月に劇場公開されたアメリカのミステリー映画。ミステリーの女王、アガサ・クリスティ(1890年〜1976年)が1934年に発表し、これまでにも映画化、ドラマ化されている『オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)』が原作。





【オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)】

 ミステリーの女王、アガサ・クリスティが1934年に発表した長編推理小説。「名探偵エルキュール・ポワロ」シリーズの第8作にあたる。ミステリー黎明期の実験作と言えるかもしれないが、その意外で奇抜な真相から、アガサ・クリスティの代表作の一つとして知名度が高く、クリスティ・ファンからもミステリーファンからも人気高い人気を誇っている。

 1932年3月にアメリカ合衆国ニュージャージー州で起こった飛行士のチャールズ・リンドバーグの息子が誘拐された事件に着想を得て書かれたという。1927年に大西洋単独横断に成功したリンドバーグの1歳8ヶ月の長男が、自宅のベビーベッドで眠っているところをさらわれた、という事件である。ベビーシッターが部屋を離れた隙を狙って梯子を使って長男を連れ去ったとみられ、5万ドルの身代金の請求書が残されていた。リンドバーグは身代金を支払ったが長男の身柄は返って来ず、5月に10q程離れた森の中で白骨化した状態で発見された。1934年9月、身代金の紙幣がガソリンスタンドで使用された。使ったのはリチャード・ハウプトマンというドイツ系移民の男性であった。家宅捜索の結果、莫大な金と拳銃が発見され、事件直後に職場を辞めていたことなどからハウプトマンは重要な容疑者として取り調べを受けた。ハウプトマンは金は仕事仲間から預かったものだと主張し、一貫して無罪を主張した。1935年2月に地方裁判所は死刑を言い渡した。ハウプトマンは控訴するも棄却され、1936年4月に死刑が執行された。物的証拠の乏しい事件だったこともあり冤罪説が根強く唱えられ、「アメリカ犯罪史上かつてない不可解な事件」と言われることもある。

 作品の舞台となっている『オリエント急行』は1883年に始まった、国際寝台車会社(日本での通称「ワゴン・リ」社)によるパリ−イスタンブール間の長距離夜行列車であり、その後、西ヨーロッパとバルカン半島を結ぶ国際寝台車会社の列車群がオリエント急行を名乗ることになったという。ヨーロッパと東洋を結ぶ高級長距離夜行列車であり、旅行者のみならず富裕層や政府高官、王侯貴族らにも好んで利用されたという。オリエント急行は、異国情緒あふれる雰囲気や豪華な寝台車両というイメージから小説・映画の舞台となってきた。第二次世界大戦やその後の東西冷戦の影響や航空機の普及などにより、寝台列車のみで構成された豪華な長距離夜行列車という性格は失われ、路線の縮小・廃止がされていった。1971年は国際寝台車会社が寝台車の営業から撤退し、寝台車両は各国の鉄道業者が持つことになった。1977年5月にダイレクト・オリエント急行の廃止により、パリからイスタンブールへの直通列車は消滅した。


【ストーリー】

 1934年。エルサレムの礼拝堂から高価な装飾品が盗難するという事件が起こった。左右均等の大きな口ひげを蓄えたベルギー人の私立探偵は、大勢の聴衆の前で自身の推理を披露し、犯人を暴き出し事件を解決した。探偵の名はエルキュール・ポワロ。「灰色の脳細胞」を持つ男と呼ばれ、自他ともに認める世界一の名探偵と謳われる人物である。そのままイスタンブールで休暇を取ろうと考えたポワロだったが、急遽ロンドンに戻らなければなくなった。困っていたところを、偶然、ブークという青年に再会する。彼はオリエント急行のオーナーの甥で、現在は同社の重役である。ブークは以前、事件に巻き込まれてポワロに救われたことがあり、その恩義を感じていたことからフランスのカレーに向かう長距離列車に席を用意した。

 列車は真冬にも関わらず季節外れの満員だったことから、二等寝台に泊まることになったポワロ。様々な人種や職業、年齢、性別の人たちが乗り合わせていた。2日目の昼――その中の一人、ラチェットにカレーに到着するまでの護衛を依頼される。彼はアメリカ人の美術商で、何者かから殺害をほのめかす脅迫状が送られて来たのだという。ラチェットの不遜な態度を不快に感じたポワロは、その依頼を断る。その夜、ブークの好意で一等寝台に移ったポワロ。隣室はラチェットの部屋だった。読書をしていたポワロは付近の部屋での物音などにたびたび廊下に顔を覗かせなければならなかった。その時、赤いマントの後姿を目撃する。そして日付が変わったころ、列車は雪崩によって脱線し、立ち往生することになってしまう。翌朝、ラチェットが起きてこないことが分かり、ポワロとブーク、乗客のアーバスノット医師がラチェットの部屋を確認すると、滅多刺しにされたラチェットの遺体を発見する。

 状況を考えると犯人が乗客の中にいるのは間違いない。ブークの依頼により捜査を開始したポワロは、ラチェットの部屋から彼の素性に関する様々な証拠を見つける。ラチェットの本名はカセッティ。数年前にアメリカで起こった、富豪のアームストロング大佐の幼い娘が誘拐されて殺害された事件の犯人であった。事件の犠牲者は誘拐された娘だけではなく、大佐の身重だった妻は事件をきっかけに流産し母子ともに命を落とし、アームストロング大佐も妻の後を追って自害していた。また、犯人と疑われた若いフランス人のメイドも自殺に追い込まれていた。ポワロも、生前のアームストロング大佐から事件の捜査を依頼されていた、という形で関わっていた。

 ポワロは乗客と個別に面談し、動機とアリバイを探ろうとした。ラチェットの部屋の前の通路は、フランス人の車掌、ピエール・ミシェルが待機しており、彼の目をかいくぐってラチェットの部屋を出入りするのは難しい。さらに乗客の証言から、一部を除いてそれぞれのアリバイが成立し、捜査は手詰まりになる。しかし、証言者たちは何かを隠し、嘘をついている。ポワロは捜査の末、偶然乗り合わせたかのように思われた乗客に共通点があることに気付く。



【感想】

『オリエント急行の殺人』はこれまでに幾度となく劇場映画化、テレビドラマ化されてきた名作である。1974年の映画版はアカデミー賞6部門にノミネートされ、助演女優賞を獲得した名作である。2015年に日本でも、三谷幸喜脚本で舞台を昭和初期の日本に、キャストを日本人に翻案してテレビのスペシャルドラマで放送されたこともある。世界で最も有名な推理小説の一つであろうし、おそらく真犯人の正体も最も広く知られているであろう。そんな作品の映画化である。差別化を図るのは難しかったと思うが、古典的な魅力は残しつつ、また変わったポワロ像が描けたのではないかと思う。正直、他の作品より熱いポワロだったように見えるし、余裕がないようにも思え、良い方向であったのか分からないが、時に偏狭的にバランスを重視する独自のポワロ像を描いたことで、ポワロの最後の決断に一つの解釈を与えてくれた作品であったように思う。